不可抗力による事故の賠償請求

Tracey Peers - 水曜日, 6月 22, 2016

オーストラリアの賠償請求制度は、過失の有無で賠償責任が決まるため、交通事故に関して損害賠償金を得るには、相手の運転者に過失があったことを証明しなければなりません。「過失」は、しばしば「不注意」とも言い換えられます。一瞬の気の緩みであっても「不注意」ですから、民事の賠償請求では刑事において必要とされるほどの重度の過失性は求められません。一方、交通事故を起こした運転者側には、賠償金の減額や賠償責任が一切問われなくなるような、いくつもの免責事由が存在します。例えば、もし賠償請求人(原告)がシートベルト未着用だった場合、被告側は、原告の寄与過失を指摘し、賠償減額(過失相殺)を求めるでしょう。しかし稀に、被告(事故を起こした運転者)が突如意識を失ったり、発作に襲われて衝突事故が起きてしまった場合、「不可抗力による事故」を主張し、免責を求めることもあります。具体的には、被告(通常、事故を起こした車をカバーしている保険会社)は、相応の運転能力と注意力を備えて運転していたとしても避けられる事故ではなかったと主張し、賠償責任を拒否することが可能です。保険会社はこうした主張を通すため、事故を起こした運転者には過去に意識喪失につながる不安な症状は一切なく、運転者はそれが起こることをまったく予見できなかったため、不可抗力による不測の事故であったことを証明する必要があります。

キーポイントとなる検討要因は、以下3点です。

• 事故を起こした運転者は、意識喪失に関係する既往症があること(過去に心臓発作を起こしたことがあるなど)を自覚していた(あるいは、自覚しているはずだった)かどうか

• もし自覚していた場合、リスク(意識喪失)回避のための対策として何を行っていたか(治療・服薬などをしていたかどうか)

• 車を運転する前、運転者に意識喪失のリスクが高くなる気配、そうした状況はあったか
免責になった判例:

• Smith v Lord [1962] SASR 88: 

• 長年心臓に問題がなかった運転者が、突然の心臓発作でコントロールを失ってしまったために起きた事故は、「不可抗力による事故」と認められ、運転者の法的責任は問われませんでした。

• Collins Transport Group Pty Ltd v Kerry Logistics (Australia) Pty Ltd [2006] SADC 124: 

• 2台の車の衝突事故において、心臓発作が起きた運転者には「事故を回避する十分な時間がなかった」と心臓専門医が証言したことから、「不可抗力による事故」と判断されました。
免責にならなかった判例:

• Dowsing v Goodwin (1998) 27 MVR 43: 

• 子どもの頃より持病があり、事故前の数週間、血糖値のコントロールに不安が生じていた運転者が、突然の低血糖発作によって事故を起こしました。運転者は発作を回避するための相応の対策を怠った、つまり運転者の不注意による事故と判断されました。

• K & S Freighters Pty Ltd v Nelmeer Hoteliers Pty Ltd - BC 200103009: 

• 過去に胸に痛みがあり心臓発作の経験がある運転者には、再発を予見することが十分に可能だったため、運転者は法的責任を認めました。
これらのキーポイントを踏まえると、事故を起こした運転者が法的責任を避けられるかどうかは、医療記録(救急車やかかりつけ医の記録など)やその他補助資料(警察による事故証明など)の内容次第ということです。もしも運転者側が、運転中の意識喪失はまったく予想できず、突然の出来事であったことを確証するのに十分な証拠書類を出すことができれば、「不可抗力による事故」として免責適用となる可能性が高いでしょう。

こうした原則があることを考えると、車両総合保険加入の大切さを実感するのではないでしょうか。誰しも、運転中に起こるすべてのことを予測することはできません。他のドライバーに健康問題があり、それによって事故が起きてしまう(巻き込まれてしまう)可能性もあり得るということです。保険加入の利点は、道路交通のリスクを加入者個人と保険会社で共有し、適切に管理できることにあります。オーストラリアで車両を登録する際には、同時にCTP保険への加入が義務付けられていますが、CTP保険は人身傷害だけを補償する保険のため、車の損傷について賠償請求することはできません。相手が対物賠償保険に加入していた場合であっても、請求人自身が保険に加入していなければ、相手保険会社への請求は個人で行う必要があります。

総合保険加入のさらなる利点は、第三者の過失であなたの車が破損し、あなたの保険会社から保険金が支払われた後、保険会社はあたなに代わって事故を起こした第三者に対して賠償請求する権利があることです(保険約款にもよる)。つまり、あなたの保険会社があなたに支払った保険金は、第三者に返済してもらおう、ということです。こうしたシステムがあるので、あなたは車の破損を補償してもらうため、第三者の保険会社とのやりとりに多くの時間を費やすことはありません(もちろん、あなた自身の保険会社が手続きを円滑に進めるため、事故の詳細情報を提供するなど、協力する必要はありますが)。

上記をまとめますと、運転者が発作に襲われたことが原因で衝突事故が起きてしまった場合、運転者の過失を証明することは簡単ではありません。一方、事故を起こした運転者は発作を理由に(発作の性質にもよりますが)、法的責任を負わなくて済む場合もあります。また、道路わきに駐車してあった車に、一般的な(健康な)運転者が車を衝突させてしまった場合、運転者の不注意で車をぶつけてしまったことは明らかなため、法的責任免除の余地はありません。しかし、発作を起こした運転者が車をぶつけてしまった場合、この運転者(保険会社)の法的責任は問われないかもしれません。発作が原因で事故を起こした場合、法的責任を回避すにはどのような主張が有効か、何がキーポイントとなるか、については上記で説明したとおりです。本コラムではさらに、適切な保険加入の重要性についてもお伝えしました。先ほどの例のように、運転者の発作を理由に相手に法的(賠償)責任を問えない(=不可抗力による事故)となれば、道路わきに駐車中ぶつけられてしまった車が無保険の場合、残念ながら修理代は、何の責任もない車の持ち主の自己負担ということになってしまうでしょう。

本コラムは以下を参考にさせていただきました: Brett Turnbull, “The Not-So-Inevitable Inevitable Accident,” (14 April, 2015), Recoveries Corp http://www.recoveriescorp.com.au/news/the-not-so-inevitable-inevitable-accident/

より詳しい情報につきましては、以下QLD州政府Motor Accident Insurance Commissionのウェブサイトをご覧ください: “Frequently asked questions – Motorists” (23 February 2016), http://www.maic.qld.gov.au/ctp-premium/faqs.shtml